アジアと世界の先導役に
専門家らは今回の座談会で「匠の精神」や電子商取引経済、日本の対中投資、中日企業の協力など、両国経済のホットなテーマについて多角的に話し合った。討論では意見が衝突することもあれば、理性的なコンセンサスに達することもあった。専門家らの分析を通じ、私たちは目下の中日経済の現状と未来図をより冷静に、より全面的に見つめることができた。
日本の「匠の精神」に学ぶ
張季風 日本の「匠の精神」とは、ある製品または技術を極限まで磨き上げることです。日本経済は表面的には大企業が主導的な役割を果たしていますが、実際には幾千万の中小企業が背後から支えています。中小企業が発揮する「匠の精神」によって、日本は過去のナンバーワンから今のオンリーワンになりました。これらの企業はほかの人が追い越せない独自の技術を持っています。これが日本の追究する「匠の精神」です。100年以上の歴史を持つ老舗企業は日本には数十万社ありますが、実はこれらが「匠の精神」を伝承しているんです。私の理解では、李克強国務院総理が提唱した「匠の精神」は日本のような「匠の精神」を指しています。この点で中国企業が日本に学ぶべきことは山ほどあります。これも今後の中日企業による協力の新たなモデルになるでしょう。
張玉来 日本経済の低迷は「匠の精神」を追究しすぎたことと関係があるという指摘がありますが、私はそう思いません。日本企業の衰退の原因は「匠の精神」の過度な追究にあるのではなく、モジュール化革命に適応していないことにあります。日本企業は現在モデルチェンジしており、生産部分は依然として役割を果たしています。設計から生産、販売までのチェーン全体では、日本の生産方式は依然として強力ですが、設計分野では問題があります。今この分野が急速にモデルチェンジしています。例えばトヨタ自動車の新しいプラットホーム戦略「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)」です。
また、日本企業が「匠の精神」を保てるもう一つ重要な要因は、独特の研究開発投資モデルです。鴻海精密工業によるシャープ買収を例に取ると、鴻海は早くも2012年からシャープに「片思い」をしていました。シャープが依然として強力な技術的優位性を持っていることが魅力だったんです。日本企業には研究開発面で重要な特徴があります。それは研究開発への投資は会社の利潤ではなく、売上高を参考にするということです。商品が売れさえすれば、利潤の有無にかかわらず研究開発に投資するので、日本企業は持続的な研究開発ができるのです。シャープはまさにこれで、利潤は何年かマイナスでしたが、研究開発に依然投資しています。
今、私たちの企業も「匠の精神」や製品の質を重視するようになり、製造業のIT化による「インダストリー4・0(第4次産業革命)」という新しい目標を打ち出しています。今回の生産革命では、日本の経験は注目と研究に値します。これ以前の「インダストリー3・0」の時代、日本はトヨタ生産方式を旗印として欧米を追い越しました。「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」など現在の生産現場管理規則の多くは日本人が生み出したものです。ですから日本企業の成功の経験と失敗の教訓はしっかり手本とし、吸収する価値がありますよ。
江瑞平 「匠の精神」については、こんなことがありました。清華大学で中韓共催のあるイベントに参加した時、隣にいた韓国人の教授はミネラルウオーターのふたをどうしても開けられませんでした。ふたの「匠の精神」が十分に発揮できていないのです。誰でもふたを開けられるようにうまくデザインし、製造するのが「匠の精神」です。もしふたを金銀メッキで飾ってピカソの絵を印刷するなら、やり過ぎになりますよね。
「匠の精神」にも「度合い」というものがあり、向上に向上を重ねるにしても実用価値にふさわしい程度であるべきです。カメラに例えると、「匠の精神」は過度な包装ではなく、画質や使い勝手の良さに表れるべきです。「匠の精神」の「度合い」は異なる段階では異なる要求があります。中国の現状では、「匠の精神」を強調するのは際限なく加工するためではなく、粗製乱造を防ぐためです。この数年、中国で作られた一部の月餅は工芸品のように手が込んでいましたが、これは大多数の消費者にとって必要だったのでしょうか?
ネットが主な販売路に
張季風 安くて便利な電子商取引は中国の市場にとって非常に大きな魅力があり、特に若者の間で人気があります。若い人はほとんどインターネットと電話1本でショッピングを済ませ、後は宅配を待ちます。若者にとってネットショッピングをしないのは時代遅れの象徴です。
それでは、なぜ日本の電子商取引は中国ほど発達しておらず、出遅れていると感じられるのでしょうか。電子商取引は実店舗に打撃を与えますし、また顧客が実店舗で感じる商業文化は、電子商取引業者が宅配便で商品を送ってくる感覚とは全く違うからです。1980年代に米国は自国の大型量販店を日本に進出させようとし、日本社会の大きな反対に遭いました。日本の商店街が長年培ってきた商業文化が破壊される恐れがあったからです。
もう一つ重要な理由は、コンビニエンスストアチェーンがすでに日本の隅々までカバーしている点です。コンビニは便利で迅速なサービスを提供できますし、その物流サービスも中国で盛んな電子商取引より優れているため、電子商取引へのニーズはそれほど高くありません。
李光輝 日本は電子商取引を理解し、研究したはずだと思います。電子商取引の発展にあまり力を入れなかった理由については、日本の元の商業販売モデルがすでに完全な消費流通の産業チェーンを形成していたことが挙げられます。これは中国がいま産業チェーンを構築している状況とは異なります。80年代以前に生まれた中国人にはショッピングモールで買い物するという観念がありますが、「90後(90年代生まれ)」の多くの若者はネットでの買い物が習慣になっています。
張玉来 電子商取引の流通コストは伝統的な店舗販売と違うため、同じ商品でも販売価格で大きな差が出ますね。一方、電子商取引にはいかに商品の質をコントロールするかという問題があります。日本には商品の質について厳しい検査基準がありますが、中国はまだこの点で改善の余地が多大にあります。
張季風 日本は90年代の物流改革で価格破壊を経験しました。日本の100円ショップには非常に安い商品がたくさんあります。同じ商品であっても、日本ではわずか100円の物が中国では20元(約330円)以上で売られています。
張玉来 農産物で考えた場合、日本の商品が安い理由は「農家とスーパーの直接取引」を実現したからです。日本の農協は農産物を直接スーパーに輸送し、販売します。しかし中国の場合、このプロセスで農産物が何段階もの取次を経て価格も上がっていきます。その結果、最終的に消費者への販売価格は高くなっているのに、最初の生産者はあまり利益を得られていないんです。
江瑞平 私は日本の農協を視察したことがあります。以前、日本の状況は今の中国とよく似ていました。野菜農家はスーパーでの小売価格よりもずっと少ない金額しか得られませんでした。この差額は各段階の卸売業者や物流業者の利益になっていたわけです。電子商取引による商品の質の管理について言えば、中国の一部企業の粗製乱造や模倣品・粗悪品、電子商取引業者の無責任な販売が製造業の環境に悪影響を与えたことは重く見られていますよね。
李光輝 ですから電子商取引への管理監督を強める必要がありますね。しかし電子商取引業者は実店舗のようには固定していないので、管理監督のコストと難易度は高くなります。欧州が早い時期に電子商取引のメリットに気付きながらも発展に力を入れなかった理由はここにあります。
江瑞平 電子商取引は新しく登場したものですから、プラスとマイナスの両面があります。雇用の増加や国内総生産(GDP)成長の保証の点からいえば、電子商取引はプラスの役割を果たしていますね。いかに電子商取引を今後の発展に導き、規範に適合させるかが鍵になります。
張玉来 楽天など日本の一部企業のネットショッピングは大変なスピードで発展し、しかも中国市場に照準を合わせています。例えば、ヤマト運輸は中国郵政と協力し、上海を中心にネットで日本の商品を購入して郵送する業務を展開しています。
江瑞平 実店舗でも電子商取引業者でも、商品の質さえ保証できれば消費者を獲得できます。販売方法の多様化は市場の活性化やサービス向上にとって良いことです。ネットショッピングのすう勢は短期間で変化せず、逆戻りもあり得ませんので、管理監督の強化が鍵になるでしょう。
経済貿易の一層の推進を
張季風 日本の対外投資はこの数年増加していますが、対中投資だけは減少しています。中国経済の成長率が7%余りから6・9%に下がったといっても、特別大きな下げ幅ではありませんし、日本の対中投資や貿易を大きく減らす原因にはなりません。ですから両国の政治の影響は本当に避けて通れません。
李光輝 日本の対中投資減少に関するさまざまな要素のうち、政治は最も重要です。中日関係がいつ低迷状態を脱するのか、投資側に見えないんです。
江瑞平 東南アジアやインドに行くと、中国と比べて生産環境や輸送条件が大きく劣っていることが分かります。では日本企業はなぜそちらに移転したがっているのでしょうか。経済や生産面の理由だけでないのは間違いなく、政治の要素が相当影響しています。
張季風 中国の人件費が上昇したことにも日本企業はよく触れますが、労働コストの上昇問題はどの国にもありますよ。日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査によると、他国の投資環境でも人件費の上昇は第1位を占めています。
李光輝 両国の産業チェーンを分析すると、目下の情勢の下であっても中国でまだ生産を続けなければならない日本企業があることが分かります。そうした企業には輸出用製品が3分の1ほどあり、中国から輸入し、世界各地に販売しています。これらの製品や部品は東南アジアでは生産できません。中国製の技術レベルに達しておらず、中国から輸入するしかないのです。
張玉来 中日の政治関係の要素は非常に重要ですよね。東南アジアのインフラについて言えば、ミャンマーの開発区では日本の投資は主にまず政府開発援助(ODA)で進められ、政府が先に道を開きます。企業は後になって行きますから基本的に余計なコストはかかりません。
江瑞平 アジアインフラ投資銀行(AIIB)を含め、対外的な経済援助の分野における中国の基本的な理念は、政府筋の投資に頼り、その乗数効果を利用して民間企業の参与を促進するというものです。例えばアフリカでは政府の経済援助が先行し、企業の投資のために有利な条件を整えています。中国政府がまず表に立って産業パークを建設し、続いて企業が進出します。
今年もし「中日ハイレベル経済対話」を再開できれば、双方は目下の経済関係に現れた問題について解決方法を示し、両国が将来展開する地域経済協力や世界的な経済問題への対応などに関して一定のコンセンサスに達すると思います。経済貿易関係に問題が現れ、特に政治の影響を受けているという背景の下で、両国の経済貿易関係の発展をどのように引き続き推し進めるかという観点から、この対話は期待に値しますよ。第三国での中日協力や地域経済における協調を含め、中日ハイレベル経済対話がより多くの成果を得られるよう私たちも望んでいます。中国の提唱する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)では、実は中日双方の協調はうまく進んでいます。米国の進める環太平洋連携協定(TPP)と競争関係にあると指摘する人もいますが、実際のところ両者は相互補完的といえます。それはTPPに追随しながらRCEPにも非常に積極的な日本のやり方から証明できますね。
世界で共通の利益を実現
李光輝 中日韓の経済貿易協力にも日本は割合に積極的ですよ。日本の関連機関も、少なくとも短期間においては中日韓自由貿易区(FTA)とRCEPの構築は日本にとってTPPよりもメリットがあると予想しています。中日の企業と経済の協力については、双方の協力モデルは変化しなければならないと私は考えています。過去には主に外資誘致に依拠していましたが、現在は国際的で多様な協力に向かうべきですから、双方には競争も協力もあります。単純に日本の対中投資の変化だけに注目してはいけないでしょう。現在はそのような協力モデルではないからです。中国は現在「一帯一路(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)」などの協力とウインウインの戦略を通じ、世界の市場における中日企業の共通利益を実現しています。
張玉来 伊藤忠商事と中国企業はタイでチャロン・ポカパン・グループと協力しています。伊藤忠商事は日本で業績トップの商社です。こうした国際的な協力は大きな変化です。
途上国を第三国市場として中国と先進国が協力するのは比較的前途が見込めるようです。ある日本経済界の友人は以前、中日が第三国で協力する場合、日本側が最も心配するのは中国国有企業に政治戦略があることと、価格競争で日本企業が中国企業に及ばないことだと話していました。中国は今後、国有企業だけが海外進出するのではなく、民間企業の力も非常に強くなると思います。もし中日民間企業が国際経済の舞台でますます活発に協力するようになれば、将来非常に素晴らしい見どころになるでしょう。
張季風 皆さんは中日が第三国で協力すべきだと強調していますよね。私は反対しませんが、それは中日双方が互いの国で協力するよりも難易度が高くなるでしょう。昨年の中日経済貿易関係分野の各種データは大きく下降しています。これは争いようのない事実ですよ。私たちはこれらの数値をどう速やかに回復させるか直ちに考えるべきです。結局これは中日間の事柄ですから。
江瑞平 そうした状態を招いた原因はいくつかあります。中日両国自身の原因もあれば、国際的な環境がそうさせた部分もありますね。世界経済が不景気ですから世界全体の貿易減少に大きく影響を受けています。
李光輝 日本に対する米国の影響や南海問題への日本の介入などについて、中国にも我慢の限度となる最低ラインがあります。これこそがいくつかの問題が現在解決できていない原因でしょう。
中日経済全体から見れば、重要なのはいかに東アジアや東北アジアをけん引する役割を果たすかです。世界経済はいまだに停滞状態を抜け出しておらず、東北アジアの協力は非常に重要です。東アジアと東北アジアはけん引役を必要としています。それができるのは誰でしょうか。中日韓です。私たちの想定では中日韓FTAはけん引役を果たせますが、政治や経済、地域の問題によって順調には進んでいません。今回、中日韓FTAの協議で日本が突然積極的になったのは、TPPに参加しても実質的な意義は大きくなく、自国経済の発展過程では中国の影響が非常に大きいことを理解したからです。日本の研究者や官僚と交流すると、彼らは中日間の協力モデルに新機軸を打ち出すことを切実に望んでいます。私たちが現在研究している問題も、中日双方がいかに相手国や東アジア地域ひいては国際的なマーケットの競争で、意欲的で効果的な協力を繰り広げるかという点です。