中日関係をどう長期的に安定させるか 楊日本研究所長、シンポで発言
新任の楊伯江中国社会科学院日本研究所所長は12日、同研究所主催のシンポジウムで、「いかにして中日関係を長期安定させ、持続可能な発展を実現するか」と題して発言した。
楊氏はまず、今回の中日関係正常化の根本的原動力はなにかについて、概括すれば「利益駆動、政策志向」となり、それらの背後にある最も根本的本質的なものは、両国にそれぞれの経済・社会発展過程で生まれた相互協力の必要性にほかならず、米国など外部要因は第一に重要なものではないとした。そして中国の影響力の上昇と日本の総合戦略の活発化が、中日関係改善の非常に重要な一つの背景であると指摘した。
また関係改善を順調に進めるには、意見の食い違いを上手に処理し、敏感な問題を適切に管理しなければならないと述べ、双方とも受け入れられる解決案を短期間で見つけるのは難しく、当面考えるべきは局部の矛盾が激化し紛争が生じるのを防止することにほかならないとした。さらに将来の解決の条件をつくるため、現在、釣魚島の主権争いを含め、問題の存在を認める必要があると強調した。発言の内容次の通り。
きょう午前の開幕式からさきほどまで、中日双方の来賓は世界構造やアジア太平洋情勢の視点から、中日関係の置かれた時空的背景、歴史的背景と時代的背景について、深く掘り下げ透徹した分析を行った。私はこれを踏まえ、またこのような前提の下で、中日関係自体について集中的に検討を加え、ご在席の皆さんと共有をしたいと思う。時間を節約し、発言時間を短縮し、能率を高めるため、三つの問題に集中し、自問自答の形式をとって、分析を加えたいと思う。
第一の問題。中日関係でなぜ今回の好転〔原語は転圜〕、改善と協力深化があり得たのか。ご承知の通り、2012年日本側が釣魚島をいわゆる国有化した後、中日関係はずっと低迷を続けたが、2017年5月の第1回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムから2018年の両国首相の相互訪問実現にかけて、再び正常な発展の軌道に戻った。中日関係はなぜ7年間で底を打って反転できたのか、中日関係を正常な軌道に戻らせた主要な駆動力はなにか。中日関係には冷戦終結後、一度ならず危機や曲折が生じ、2006年の時私は「好転」の言葉を使っており、今回は「再度の好転」と言うべきである。
2012年からすでに7年が過ぎたが、振り返って見て、私個人は2010年の釣魚島海域での不法拿捕事件に始まり、2012年の釣魚島国有化事件を経、2013年に到って、中日関係は1972年の国交正常化以降の最低点に達したと感じている。これは私個人の一つの判断と位置づけだ。この年の4月、日本側が侵略の統一的定義はないという発言をし、同年12月靖国神社を参拝したが、最も暗い時はしばしば黎明の前夜でもあり、(2014年)11月、北京郊外の懐柔で開かれたAPEC首脳会議で、双方の指導者の短い対面が実現した。あの時から中日関係の好転、改善、正常化の努力が始まったと言うべきである。あの時から計算すれば、すでに5年近い歳月が経っているが、今回の好転・改善の根本的原動力はなにか、概括すれば「利益駆動、政策志向」にほかならず、利益駆動・政策志向の背後にある最も根本的本質的なものは、中日両国にそれぞれの経済・社会発展過程で生まれ、たえず生まれ続ける相互協力の必要性にほかならないと考える。これが最も根本的なものである。具体的なことはここでは触れない。
しかし、各界の友人からよく出される一つの質問は、中日関係の今回の改善過程で、外部要因はどんな役割を果たしたか、例えば米国要因はどんな役割を果たしたかということだ。さらにトランプ・ショックを中日関係の今回の改善の最大の推進力とする分析もあるが、この点は大いに検討に値するという気がする。確かに米共和党のトランプ政権が誕生した後、中米間に貿易摩擦が生じ、続いて貿易摩擦が激化した。同盟国日本との間でも矛盾拡大の傾向が生じた。まず貿易および貿易体制の問題、朝鮮半島の核問題を中心とする北東アジア地域の安全保障問題をめぐって、トランプ大統領が同盟国との間の共通の価値観を歴代の大統領のように強調、重視していないことや彼の異端的な外交スタイルなどはすべて、日米間に問題を引き起こした。だが米国要因または外部要因は今回の中日関係改善の第一に重要な駆動力ではないと私は言いたい。一つの簡単な事実を挙げると、トランプ大統領がホワイトハウス入りする少なくとも2年前、中日間では正常な軌道に戻す試みがすでに始まっており、トランプが登場していない2016年でも、中日関係の改善は時間の問題であり、それは歴史の必然性だった。ここにはさらに、中日双方の戦略的政策的背景という、一つの重要な前提がある。つまり地域の国際問題において中国および日本の役割が増大に向かい、上昇に向かったのである。ご承知の通り、冷戦後二極構造が崩れ、「一超多強」構造に変わったのに伴い、アジア太平洋地域情勢は少なくともオバマ大統領以前、かなりの程度米国の政策によってけん引されており、少なくともクリントン大統領の任期中からそうなった。また中国の「一帯一路」が力関係の変更、地域構造の再構築で重要な役割を果たすようになり、中国要因が厳然として一つの独立変数となった。これと同時に、日本の総合戦略の活発度が上昇し、経済は以前のように成長率が高くなく、押せ押せの勢いでもないが、その総合戦略の活発度は下がるのではなく、高くなった。そして一つの従属変数から独立変数に変わろうと努力し、「こま」から「棋士」に変わろうと努力した。2013年には見直しから始めて安全保障の転換をはかり、国力構造をより完全にし、国力のより全面的な機能を発揮させようとした。日本は新しいTPP推進で大きな進展を収め、日本欧州連合(EU)EPAに調印した。日本EUのEPAは世界で最も規模の大きい自由貿易圏である。中国の作用・影響力の上昇と日本の総合戦略の活発度の増強が、先程われわれが述べた、中日関係が好転を実現し改善された非常に重要な一つの背景である。
第二、中日関係の今回の改善と協力深化の道はいったいどこまで続くか。いまわれわれは過去を読み解いたが、次に前方の道を見てみたい。中日の関係改善・協力強化は中日双方にとって重要で、必要で、完全に可能であり、巨大な潜在力もある。しかしこのような関係改善と協力深化は自分で天から降ってくることはない。それは無条件ではなく、自然に生まれるものでもなく、われわれが戦略面政策面で人為的に条件を整える必要があり、大いに育てますます大事にする必要がある。
以下のようないくつかの面が非常に重要だ。まず中日関係の巨大な潜在力は産業分野の巨大な相互補完性から生まれている。早くも1960年代、日本の著名な国際問題学者高坂正尭は、日本の真のライバルは中国ではないと述べたことがある。現代の日本の有名な経営学者大前研一氏も、21世紀の日本がとるべき国家戦略は中国を得意先にすること、つまり中国を客とし、顧客とすることだ、一つの中国で「日本は一生食べてゆける」と述べている。中国にとってもそうだ。われわれは日本を含む外国の進んだ経験を学ぶ必要があり、省エネ技術、環境保護技術、地域協力の経験、貿易戦争への対応すべてで相手に学び参考にすべきである。これが第一点。
次に中日関係の改善を順調に比較的遠くまで進め、協力を比較的遠くまで進めるには、意見の食い違いを上手に処理し、敏感な問題を適切に管理しなければならない。中日関係は確かに改善され、発展しているが、しかしお互いの間のいくつかの重大な問題は根本的に解決されておらず、これも一つの現実である。われわれはダチョウ〈注〉になってはならず、現実に向き合わなければならない。これらの問題について双方とも受け入れられる解決案を見つけるといった状況が短期間に現れるのが難しいのははっきりしており、この現実を考えれば、われわれがまず短期的に考え当面考えるべきことは、まず問題を適切に管理して、局部の矛盾が激化し紛争が生じるのを防止することにほかならない。問題をうまく管理して将来の問題解決の条件をつくるため、現在その前提条件として、釣魚島の主権争いの存在を認めることを含め、問題の存在を認める必要がある。問題を認めることは問題管理、問題解決の第一歩であるからだ。
さらに戦略対話を強化し、協調の範囲を拡大する。自由貿易、地域協力などに関わる面で中日間には共通点がある。しかし中日間に違いさらには意見の食い違いがないわけではない。大きいところで、私はさきほど日本の戦略的自主性が上昇していると述べた。しかしこうした上昇は必ずしもその方向が中国と同じであるわけではなく、われわれは冷静な頭で全面的に把握しなければならない。具体的問題としては、例えば今年日本はG20サミットの主催国を務める。これより前の昨年はアルゼンチン、来年はサウジアラビアで、日本の演じる役割は非常に重要だ。日本は1年に3年分の仕事をし、一つの任期で三つの任期を務めなければならない。他の二つの国はおそらく日本のように重要な役割は果たせないからである。しかしWTO改革をめぐり、一連の重要な制度づくりをめぐって、日本の考え方は欧米と全部が全部同じではなく中国とも完全に同じではない。例えば電子商取引(EC)について、ネット情報についてだが、これらの問題、特定の問題における日本の立場はおそらく中国ではなく、欧米の立場により近く、これらのことをわれわれは頭に入れ、うまく評価し、精密に把握しておかなければならない。
第三の問題。中日関係の長期安定を実現し、持続可能な発展を実現するために、われわれはどうするのが正しいのか。基本的な考えの道筋をまとめれば、ストック〈過去の問題〉を改善し、フロー〈新しい問題〉を最適化する、というふうになる。その意味の一つ目は、ストックの改善をめぐって、率直に現実と向き合い、意見の食い違いを適切に管理し、問題が今後の適切な解決の方向へ進むよう後押しすることだ。
二つ目の重点はフローをどう最適化するかということ。ここでは三つの点が重要だと思う。一、時代の流れ、文明の高みから中日関係を位置づけ、考察しなければならない。今回のシンポジウムが国際的変局下の中日関係と位置づけたのを含めて……。つまり百年ぶりの大変局という大きな背景、大スクリーン、二国間関係の問題を結びつけ、みなで世界の中の中日関係、時代の中の中日関係という考察の視点を増やさなければならないという意味だ。二、中日は相互に学習し、研究を深める必要がある。近年、欧州は極右病にかかり、非常に排外的であるが、日本は社会の所得格差を現すジニ係数がこれまでずっと比較的低い。日本はどのようにしてこれをなしとげたのか。これらはすべて研究する必要のある問題だ。日本では平成時代が終わったばかりだが、社会思潮、政治思潮の流動、本流の価値観など、平成時代や戦後についてのわれわれの研究は引き続き深める必要がある。三、実務協力を推進すること。どんなによい位置づけやビジョンも実際の中身の支えがなければならず、中日関係はなおさらそうだ。中日関係は豊富でまた複雑であり、まさにそれゆえに前進しなければ後退する。自転車に乗るとき一定の速度を保たなければ倒れるように、実務協力の強化は緊迫感が求められる、最も素朴でまた最も重要なことである。中日が第三国市場、基盤整備協力で企業文化中の違いをどう克服し、着実に一つ一つのプロジェクトの進展を図るかは非常に重要なことである。
変局の中でどう新しい型の国際関係を推し進め、人類運命共同体を推し進めるかは中国の責任であり、日本も新しい方向を模索すべく努力している。世界の大勢をどう正しく理解し正確に把握するかは、両国が潮流に沿い、世界の平和的発展と安定を守るうえで一つの共通の課題である。われわれは共に知恵を出し合う必要があり、時代の捨て子になってはならず、この時代の敗北者になってはならない。われわれは共同で時代の挑戦に勝たなければならない。〔東京5月13日発中国通信〕