日本の中国国債保有、目的は自国の財源拡大
北京を公式訪問中の野田佳彦首相はどうやらよい手土産を持参してきたくれたようだ。
また、人民銀行(中央銀行)からも、中日間の金融市場の提携を強め、二国間の金融取引市場構築を奨励するために、明確な提携意向や指導的指針を盛り込んだ意見書が公布されている。ここにきて、両国政府共同の推進により、中日金融提携が発展する兆しを見せている。
では、こうした情勢はどういった背景や要因から生まれたのであろうか?また、中日両国の経済にどれほどの影響をおよぼすものなのだろうか?日本政府の中国国債保有をどう見なすべきなのだろうか?またその発展方向をどう予測すべきなのだろうか?
チャイナネットの取材を受けた中国社会科学院日本所経済室の張季風主任は、これらの問題について以下のように解説している。
金融提携:至極自然な成り行き
張季風主任によると、中日両国の経済・貿易関係はこれまでずっと健全で安定した状態にあり、今後さらに発展・拡大していく段階にある。貿易だけの関係に止まっていた中日両国が改革開放(1978年~)以降、日系企業の中国直接投資や円借款を主とする政府開発援助(ODA)による投資提携が活発に行なわれている。近年では、中国企業の日本投資も行なわれるようになり、投資の双方向性が確立している。また、中国政府による日本国債への投資が始まり、この度、ついに日本政府による中国国債投資が取り決められた。
この歴史を見れば、この度の金融分野の提携強化は、健全で安定している日中間の経済・貿易関係の延長線に過ぎないことが分かる。特に、中国が中日両国に利となる戦略方針を固めてから、重点的な発展内容の中で、金融分野の提携が大きな位置づけを担っていた。
これまで、中日両国は何度も話し合いの場を持ち、認識を一致させてきた。この度の人民銀行の意見書の内容は、自然な成り行きを文章化したものに過ぎないと言えるだろう。
どういった経済活動であっても資金および金融サービスは不可欠であるため、金融分野の提携を強化すれば当然、両国間の経済・貿易関係を促進させることになる。世界第2位、第3位の経済大国である両国が金融提携を行なえば、中国国内の金融秩序を安定化させるだけでなく、地域経済、また全世界の金融秩序を大きく促進させることになる。
日本政府の意図:中国国債保有は自国財源拡大の布石
日本政府の中国国債投資に対し、中国国内でも様々な意見が出されている。「人民元の国際化を後押しする絶好のチャンス」という考えもあれば、「管理変動相場制が実施されている現在、日本が中国国債を保有するということは、中国資産の国外流出につながる。そうすれば人民元切り上げの圧力や高まり、外貨準備がさらに上昇をまねき、ひいては中国のインフレが著しくなり、中国当局の財政運営が一段と厳しくなる」という考えもある。
張季風主任はこれに対し、「2つの考えはいずれも間違っていない」と意見を述べている。
「如何なる経済活動であろうと常に二面性を有するのと同じである」とした上で、「私の考えでは、その利は弊害より大きい」との考えを示している。またそれは日本にとっても同じである、としている。
その原因について以下3つの考えを示している:一つ目は、中国と日本は単なる第2位、第3位の経済大国というだけでなく、世界第1位、第3位の輸出大国であり、外貨準備高がいずれも高く、外貨準備の構成通貨の多様性は中日両国にとって不可欠となっていることである。米ドルが下落し、ユーロも弱くなっている情勢の中で、今後価値が上がる可能性を秘めている人民元で為替ヘッジした中国国債を保有することは、
リスク分散といった面から見ても賢い選択だと言える。同様に、日本国債を中国政府が保有することも中国のリスク分散につながる。
二つ目に、人民元の国際化を強化することができるという点である。G7(先進国)の中では日本が初めて外貨準備に「人民元」を導入することになったわけだが、この度の日本政府の投資が、人民元の国際化を後押しすることになるのは必然である。
三つ目に、中国政府はすでに日本国債を大量に保有しており、日本の中国への依存度は高まっている。それについて日本国内の世論、ひいては首相本人ですら危機感を感じ始めている。この度、日本政府が中国国債を保有することは、日本国内における二国間の対等性や相互性を求める世論や政治的意識に答える形になり、日本国内のナショナリズムの昂揚を抑える作用にもなる。
また、日本の財政上、震災後の再建、低迷する景気の刺激策、円高対策にいずれも資金が必要になってくるため、日本政府は財源を拡大する必要に迫られている。中国との対等的な国債持ち合いが実現できれば、それを基礎に、中国政府による更なる日本国債投資を見込めるわけで、そうすれば、必要な財政資金の確保につながっていく。
別の方面から見ると、この度日本政府が投資する中国国債の額は低く、中国の外貨準備高の中で非常に低い割合を占めるにすぎない。またこの度の国債投資が何度かに分けて行なわれることから、張季風主任は「中国の金融市場への影響は小さい。過剰に警戒する必要はない」と述べている。
日中韓FTA 実質的には進展中
張季風主任によると、中国は日本にとって第1位の貿易相手国である。また中国にとって日本は第2位の貿易相手国である。事実上、貿易分野における中日間の依存度は非常に高く、中韓貿易、日韓貿易に関しても同様である。今の時点では3国間にFTAや自由貿易区などといった合意や名称はないものの、実際には3国間の経済・貿易関係は急速に進展している。日中韓FTAの合意に関しても来年には何らかの進展があるのではないかと見込まれている。
張季風主任によると、金融市場の提携が深まる中で、人民元による日本の中国直接投資の規制が徐々に緩和されている。日本企業の中国支社への投資もその内の一つである。日系企業を含む外資企業の中国国内での制約が少しずつ解かれていることは、張季風主任が日本の3・11地震後に予測した「日本の中国投資が再度高まる」ことを実証することになるかもしれない。
今後の展望 複雑にからまる多方面の要素
日本政府の中国国債保有は今後拡大していくのか?との問いに対し、張季風主任は以下のように述べている:その点に関しては、中国と日本、それぞれの景気状況や政治、外交関係、安全保障などといった方面から総合的に考慮しなければならない。
だが、この度の中国国債投資は、中国政府と日本政府の相互信用といった意味で、大きな一歩を踏んだ歴史的な出来事であることは間違いない。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2011年12月27日