関係改善こそ日本の活路
中国社会科学院日本研究所所長補佐、経済室主任 張季風
アベノミクスは実施後に短期的な効果をもたらしたが、日本経済は2013年第3四半期にピークに達して下降を始め、続いて停滞状態が現れた。このため安倍政権が打ち出した経済改革の「3本の矢」は持続的な発展の原動力とはなっていない。こうした状況の下、日本経済はどのような局面を迎え、将来どうなるのだろうか。
アベノミクスで楽観できず
昨年の日本経済は決して楽観できるものではなかった。そこに現れた最初の特徴はマクロ経済の回復力不足だ。日本政府が昨年第4四半期に発表したデータによると、同年第1四半期の実質国民総生産(GDP)成長率は前期比1・0%、第2四半期はマイナス0・3%。第3四半期は1次速報値でもともとマイナス0・8%だったが、2次速報値で1・0%に修正された。国民経済の統計レベルが発達した日本でこれほど大きな修正が行われたのは驚きだ。修正がなかったら日本経済は2四半期連続のマイナス成長となっており、テクニカル・リセッションに陥ったと判断できた。第4四半期に実質GDPはマイナス0・4%とやはりマイナス値になり、昨年全体では成長率は徐々に下がった。この現象はアベノミクスが効果を失った重要な象徴といえる。
二つ目の特徴は個人消費の弱含みと実質所得の低下だ。データによると、2人以上の家庭の実質消費支出は昨年では5、8月だけが前年同期比で増加し、ほかの10カ月は全て減少していた。日本の個人消費はGDPの56%を占めているため、個人消費の減少は日本経済全体に非常に大きな下押し圧力をもたらす。このほか、日本の実質所得は減少している。アベノミクスを打ち出した際、2年以内にインフレ率2%の目標を実現すると宣言したが、最終的には実現していない。
三つ目の特徴は失業率が下がっていることで、日本経済の優れたポイントといえる。昨年の日本の失業率は前年比0・2㌽減の3・4%で、5年連続の低下となった。しかし失業率低下という明るい見かけの背後には問題が隠れている。その一つは少子高齢化の加速に伴って日本の労働人口が減少していることだ。失業率低下の一部分は労働人口の減少によってもたらされたといえる。もう一つの問題は、増加した就業人口の大多数が非正規労働者だということだ。第2次安倍政権以前は36%だった非正規労働者の比率は昨年40%を超えた。彼らの給与水準は正規労働者の約60%だ。このため就業人口が上昇しても社会全体の給与総額は全く上昇しておらず、消費が上向くことはあり得ない。
世界経済の低迷状態も影響
四つ目の特徴は輸出増加の勢いが弱まっていることだ。アベノミクスの主な目標は円安によって輸出企業の国際的な競争力を高めることだ。13年はアベノミクス効果が最もよく表れた時期で、日本円の下落率は約30%に達し、輸出は大いに回復した。しかし日本円の下落効果が弱まるにつれ、輸出の勢いも次第に減速した。13年と14年の輸出の増加率はそれぞれ9・5%と4・8%だったが、昨年はわずか3・5%だった。ただ昨年の貿易にはまだ優れた点がある。それは貿易赤字の増加幅が縮小していることだ。13年と14年の赤字規模は非常に大きく、それぞれ11兆6000億円と12兆8000億円だったが、昨年はわずか2兆8000億円だった。貿易赤字の大幅な減少と投資収益の増加によって経常収支の黒字は急激に拡大している。財務省の統計では昨年の黒字は前年の6・3倍に相当する16兆6400億円に達した。これは10年以降では最高額だ。
今年の日本経済のすう勢については、世界経済の一体化という背景に基づいて考えなければならない。外部環境から見ると、世界経済は08年の金融危機以降の低迷状態をいまだに抜け出していない。国際通貨基金(IMF)や世界銀行など権威ある組織の予測では、今年の世界経済は約3・1%の低成長を保つ。日本経済への影響が比較的大きい米国経済は先進国の中では良好といえるが、成長率は約2%に達するだけだ。中国経済の成長率は将来の3~5年で基本的に6・5%程度を維持する。欧州経済の状況はより悪くなるだろう。米国と中国、欧州の経済および世界経済全体の成長が緩やかになる中で、日本経済が大きく発展するのは非常に難しいだろう。
総合的に見ると、今年の日本経済の成長率は0・7%程度にとどまるだろう。成長率1・7%という日本政府の見通しは実現が非常に難しいと私は考えている。
「新3本の矢」は実現が困難
安倍政権は昨年9月24日、アベノミクスの「新3本の矢」を打ち出した。具体的には「20年ごろに名目GDP600兆円を達成」「20年代半ばに希望出生率1・8を実現」「20年代初めに介護離職ゼロを実現」という内容だ。実際のところ、これらは対策としての矢を意味しているのではなく、実現を望む三つの的だ。
私は「新3本の矢」の目標実現は非常に難しいと考えている。まず、日本の昨年度の名目GDPは500兆円であり、もし20年ごろに目標を達成するなら、今後の名目成長率は当然3%に達していなければならない。しかしバブル経済崩壊後の二十数年間のうち、08年の世界金融危機後の反動が現れた10年度を除き、日本の名目成長率が3%に達したことはない。外部環境がいっそう厳しくなる将来の5年間で、日本はどのようにこの目標を実現できるのだろうか。
次に、1人の女性が生涯に産む子どもの推定人数を表す合計特殊出生率は、12~14年の日本ではそれぞれ1・41、1・43、1・42だ。また収入増が見込めず、若者へのプレッシャーが大きく、保育施設が不足し、出産が女性の再就職や昇進に影響するといった理由により、希望出生率を短期間で1・8に高めるのは決して容易なことではない。
最後に、「介護離職ゼロ」という目標の実現には必ず介護施設を増やし、社会的なサービスを実現しなければならない。だが現実には日本政府は介護報酬を引き下げ、ますます多くの介護職員を退職させている。高齢化の進行にかかわらず介護離職が今後これ以上増えないというなら素晴らしいことだが、家族の感情などの要素を考慮すると、介護離職ゼロの達成は基本的に不可能だろう。
このほか1月に日本銀行が打ち出したマイナス金利政策は円高と株価下落を招いており、目下の日本経済を衰退から救うのは難しい。先進国と競争しつつ途上国の追い上げを警戒する日本企業は、たとえ利益が上がったとしても日本経済の未来に依然自信が持てず、従業員の給与を引き上げようとは思わない。これらは日本が経済の低迷から速やかに抜け出すのに不利に働く。
こうした状況に基づき、日本政府と経済界は急いで活路を見いだそうとしている。そして活路は国外の市場拡大にこそある。このことは中日両国の関係改善と経済貿易協力の強化を推し進める効果を持つ。中国はつまるところ世界の市場で最も規模と潜在的発展力が大きい国であるため、日本企業はやはり両国の協力強化を強く望んでいると私は考えている。